縄張り
震災のあと、P社では神戸復興を掲げていくつかの事業に取り組んだ。
中には「ルミナリエ」級に胡散臭いのもあったけど、
理念として、あるいは前線の社員の心意気は
「助け合い」の精神に溢れた尊いものだったと思う。
メインだったのが「神戸ハーバーサーカス」。
まぁ言って見ればややお洒落で遊び心のある中規模小売店だ。
「商店街の活気を取り戻し、新たな雇用を作り出す」。
オーナーの掛け声のもと、P社の社員(オレ達ね)は開店に向けて一生懸命働いた。
なにしろP社本体の通常営業をしながらだからね。
3日や4日家に帰ってないヤツはザラ。
開店告知のチラシをポスティングしていて、
芦屋の豪邸の門前で寝てしまったこともある。
そんなこんなでなんとかこぎ着けたオープンの日。
愚痴ばかりこぼしていたものの、いざ自分達の手掛けた店に
お客さんが押し寄せた時は嬉しかった。
オレは生鮮売り場で袋詰めをしていて、
白人女性の買ったバナナを付根から折ってしまった。
バラバラになってしまったのでお詫びをして取り替えようとすると、
「ダイジョウブヨ。タベルトキ二、ドウセオッテカワヲムクンダカラ」
と言ってどうしても交換させてくれない。涙が出た。
「誰かぬいぐるみ代わってくれ~」。
店頭の客寄せぬいぐるみの担当が足りないらしい。
というより何時間も同じヤツがやっててもうフラフラ。すぐ立候補。
ヒヨコ系の頭のデカいのは苦手だが、クマは任せとけ。
現場を仕切る後輩の注意もろくに聞かず、オレは駅に続く地下道に飛び出した。
「頑張ろう神戸」を背中に風船配り。しんどいが真夜中の値札付けよりはずっと楽しい。
「何回言えばわかんの!この線越えてこっちに入らんで!」
おっさんが何を怒鳴っているか、初めはわからなかった。
「商店街の客をとる気やろ!この商店街はね、
隣り同士でも看板や商品がちょっとでもはみ出したらダメなの!
そんなデパートの宣伝、他所でやって」。
見れば通路にチョークで線が引いてある。境目の目印らしい。
「あ、すみません、さっき代わったとこで…」。
「敵同士やから!監視カメラ、ずっと見とるからね」。
監視カメラ。同じ駅からまっすぐの通路に店を並べる商人が敵同士。
みんなで軒を並べることでたくさんのお客さんに喜んでもらうのが商店街じゃないか。
確かに地元の商店街を大型店舗が浸食するという構図もあるかもしれない。
しかしこんな時だ。やっと電車が復旧し、奪い合いも何も
人の流れが戻って来なければ何にもなるまい。風船にも店名すら書いてはいない。
またこの街に来て欲しいだけで、そもそもどの店のお客さんかなんて区別がつく訳がない。
「神戸ハーバーサーカス」は通路のどん詰まりに位置しているので、
そこにお客さんが来れば駅に戻る人は必ず商店街を通るではないか。
だが、反論は全て心の中でした。
おっさん、震災でよほどつらい目に会ったか。
いつかたくさんの人出に踏まれて、地面のチョーク線、消えるといいな。
そして細かいことが気にならなくなるほど、おっさんの店の売上も上がるといいな。
でも。
監視カメラはあんまり好きじゃねぇ、オレ。
その晩は泊まり込みになり、ぬいぐるみ隊のみんなでもつ煮食ってビールを飲んだ。
あまりに旨過ぎていい気分になり、調子こいて「全部一緒で!」とカードを出したら、
おばちゃんがこっうぇ~顔で言った。
「カードなんぞあかん!ウチは現金のみだよ!」
ラッキ~。あたりまえっすよね、おばちゃん!
中には「ルミナリエ」級に胡散臭いのもあったけど、
理念として、あるいは前線の社員の心意気は
「助け合い」の精神に溢れた尊いものだったと思う。
メインだったのが「神戸ハーバーサーカス」。
まぁ言って見ればややお洒落で遊び心のある中規模小売店だ。
「商店街の活気を取り戻し、新たな雇用を作り出す」。
オーナーの掛け声のもと、P社の社員(オレ達ね)は開店に向けて一生懸命働いた。
なにしろP社本体の通常営業をしながらだからね。
3日や4日家に帰ってないヤツはザラ。
開店告知のチラシをポスティングしていて、
芦屋の豪邸の門前で寝てしまったこともある。
そんなこんなでなんとかこぎ着けたオープンの日。
愚痴ばかりこぼしていたものの、いざ自分達の手掛けた店に
お客さんが押し寄せた時は嬉しかった。
オレは生鮮売り場で袋詰めをしていて、
白人女性の買ったバナナを付根から折ってしまった。
バラバラになってしまったのでお詫びをして取り替えようとすると、
「ダイジョウブヨ。タベルトキ二、ドウセオッテカワヲムクンダカラ」
と言ってどうしても交換させてくれない。涙が出た。
「誰かぬいぐるみ代わってくれ~」。
店頭の客寄せぬいぐるみの担当が足りないらしい。
というより何時間も同じヤツがやっててもうフラフラ。すぐ立候補。
ヒヨコ系の頭のデカいのは苦手だが、クマは任せとけ。
現場を仕切る後輩の注意もろくに聞かず、オレは駅に続く地下道に飛び出した。
「頑張ろう神戸」を背中に風船配り。しんどいが真夜中の値札付けよりはずっと楽しい。
「何回言えばわかんの!この線越えてこっちに入らんで!」
おっさんが何を怒鳴っているか、初めはわからなかった。
「商店街の客をとる気やろ!この商店街はね、
隣り同士でも看板や商品がちょっとでもはみ出したらダメなの!
そんなデパートの宣伝、他所でやって」。
見れば通路にチョークで線が引いてある。境目の目印らしい。
「あ、すみません、さっき代わったとこで…」。
「敵同士やから!監視カメラ、ずっと見とるからね」。
監視カメラ。同じ駅からまっすぐの通路に店を並べる商人が敵同士。
みんなで軒を並べることでたくさんのお客さんに喜んでもらうのが商店街じゃないか。
確かに地元の商店街を大型店舗が浸食するという構図もあるかもしれない。
しかしこんな時だ。やっと電車が復旧し、奪い合いも何も
人の流れが戻って来なければ何にもなるまい。風船にも店名すら書いてはいない。
またこの街に来て欲しいだけで、そもそもどの店のお客さんかなんて区別がつく訳がない。
「神戸ハーバーサーカス」は通路のどん詰まりに位置しているので、
そこにお客さんが来れば駅に戻る人は必ず商店街を通るではないか。
だが、反論は全て心の中でした。
おっさん、震災でよほどつらい目に会ったか。
いつかたくさんの人出に踏まれて、地面のチョーク線、消えるといいな。
そして細かいことが気にならなくなるほど、おっさんの店の売上も上がるといいな。
でも。
監視カメラはあんまり好きじゃねぇ、オレ。
その晩は泊まり込みになり、ぬいぐるみ隊のみんなでもつ煮食ってビールを飲んだ。
あまりに旨過ぎていい気分になり、調子こいて「全部一緒で!」とカードを出したら、
おばちゃんがこっうぇ~顔で言った。
「カードなんぞあかん!ウチは現金のみだよ!」
ラッキ~。あたりまえっすよね、おばちゃん!
by livehouse-uhu | 2009-04-09 15:16 | Comments(4)