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大阪梅田駅前ビル地下「めん次郎」

 凸が言う。

 「お前、何故そこでそんなにまで気を遣う?」

 「それ必要か?という配慮から出来ている男」。
いつものようにまるで自慢しているようだが、正直自分でも偽善なのか本気なのかわからない。
ファミレスで、コンビニで、本屋で。
「こんなことを頼んだら迷惑なんじゃないか?」
「今忙しそうだから後にしようかな」
「こんな小さな注文、店の人に悪い」。

 誰かを思いやっているかのようでいて、実は驕りと自意識過剰の賜物、
時にはあまりにまわりくどくて逆に邪魔だったり同行者をイライラさせたり。

 毎日のように「めん次郎」で朝定食を食っていた。
「焼き魚定食」「たまご焼き定食」「納豆定食」「ハムエッグ定食」。
大丈夫か!?と思うほどの安さ、中で働いてるのは一人の屈強な男性調理師と、
3人のおばあちゃんといって差し支えない年齢の女性。
肉体労働者からスーツ姿のサラリーマンまでごったな客層、常に激混み。

 オレは日によって違うものを頼んでいたが、しょっちゅう間違えられた。

 時には定食を頼んだのにうどんが出て来たことさえある。
それが誰か他の人との間違いでなければ、いつも文句を言わずに食べた。
こんだけ忙しいんだから仕方がない。ただし「取り違え」の場合は気をつけないと、
他のお客さんに迷惑をかける。オレ一人が我慢すればいいのなら、
「たまご焼き定食」だって「焼き魚定食」だって構わない。

 大阪のおっさん達はそれを絶対に許さない。

 「おい!おばちゃん、何聞いとるんや!ワシ、納豆やで!!これたまご焼きやないか!!」
「あ~、えらいすまんなぁ。ちょっと××さん、これ間違いやて、取り替えて」
「あ゛~?さっきたまご焼きてゆうたやないか!?ちゃんと通してや!」
「えらいすんません、今度から気を付けるよって…」。

 オレは調理師さんに怒られて悲しそうにするおばちゃんが見たくなかったのだ。

 ある日「たまご焼き定食」を待っていると大きな声が聞こえた。

 「何や、焼き魚定食のお客さんおらんのかい!?何しとんねん、注文聞き間違えたやろ!」
調理師さんが怒鳴っている。「焼き魚!誰もおらんの!?焼き魚!」

 オレは勇気を出して言った。

 「あの…オレ良かったらそれ食べたいです…」
「へい!おおきに、兄ちゃん!こちら焼き魚ね!」

 実際早く食えるから文句ないのだ。美味いなぁ、焼き魚定食。

 食べ終わる頃、おばちゃんが二人オレの前に来てそっと言った。

 「兄ちゃん、おおきにな。助かったわ」
「そや、知っとる。この兄ちゃんは優しいんや。間違えてもいつも黙って食うてくれるんや。
伝票見ていつも後で気付くんや。おおきに。また来てな」。

 もういい。オレはいいんだ。損ばっかりするかもしれん。でもいいんだ。
おばちゃん、オレのこと気にかけていてくれたんだね。
オレ、本当は優しくなんかないけど、これからもこれでいいよ。

 それは「焼き魚定食」も「たまご焼き定食」もどっちも美味しくて好きだからさ。 

by livehouse-uhu | 2009-06-14 00:13 | Comments(4)  

Commented by れいこ at 2009-06-14 00:39 x
良く分かります。
大変良く分かります。
Commented by シンヤ at 2009-06-14 16:21 x
 実は本当にはた迷惑だったりしますけどね。
Commented by 凸ヤマ at 2009-06-16 15:27 x
“クレーマー”の対極たるBOSS人種が増殖すれば、
さぞやこの国は住み易く、皆がギスギスと不快な思いを
するコトも減って、イイことづくめなのでしょうが・・・

BOSS人種が多数派になってしまったら
(そんなコトは金輪際無さそうだが)
逆に“美徳”としては目立たなくなるワナw
Commented by シンヤ at 2009-06-17 20:37 x
 いや…別に美徳じゃないことは認識しているんだが。

 あまりにも酷すぎるクレーマーがこんなに増殖するとは
誰も思わなかったからなぁ。

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